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May 31, 2011

オオカミ少年の誕生

むかし、あるところにケンという名前の少年がおりました。いや、当人は自分の名前を知らなかったので、彼を発見した村人たちが勝手にそう呼ぶことにしたのです。

ケンは発見されたとき、オオカミと一緒に生活していたと言われています。2本足でなく4つ足で歩いたこと、言葉を話せず、まるでオオカミのような鳴き声をあげたこと、生肉を食べたことなどから、そう推測されたようです。でも、その場を目撃した人はいません。

実際、オオカミがヒトの子どもを育てるとは考えにくいそうです。乳の成分もちがうし、夜行性のオオカミと昼行性のヒトという違いもあるし、ヒトが4つ足で走っても、とてもオオカミに追いつけません。

とにかく、ケンが森の中に、ヒトとの接触なしで長い間暮していたことは間違いないようです。推定、10〜11歳でありながら、ヒトの言葉らしきものは発せず、吠えるだけでした。

言語学者は「臨界期」というものがあると言います。ヒトが言葉を覚えるのは若いうちでないといけなくて、10歳くらいをすぎると、言葉を話せるようになる能力が失なわれ、それ以後に習う「外国語」は、母語と同じように流暢にはならず、アクセントや細かな語法にどうして違いが出てきてしまうようです。

ケンはぎりぎり臨界期に達していなかったのかもしれません。そのうちヒトの言葉を理解するようになり、日常生活は支障なく送れるようになりました。2本足で歩き、服を着て、肉も焼いて食べるようになりました。人々の信頼も増して、羊飼いの仕事もさせてもらえるようになりました。

ケンにとって、言葉というものは、覚えてみるととても面白いものでした。時間を越えて、今目の前にない思い出についても語ることができるし、こうあったらいいなという希望も口にできるということを知りました。

ふと気になったのは、自分を育ててくれたと、村の人が言っているオオカミのことです。ケンはまだオオカミというものを見たことがありません。実際、その村ではオオカミはもう何十年も目撃されていませんでした。ケンにはオオカミにあこがれる気持があったのです。

ある日、話に聞いていたオオカミに似た動物を見かけたケンは、「オオカミを見た」と村の人に言います。でもオオカミなどは絶滅したと信じている村人は取りあってくれません。そんなことが2度、3度続くうちに、ケンはすっかり信用されなくなってしまいました。ケンはオオカミ少年と呼ばれるようになります。(続く)

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