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February 29, 2012

50 Words for Snow

雪が多い地域に住む人の言語は雪をより細かく言い分けるようにできている、というのは一見もっともらしく響くが、言語学的には正しくない。このような「伝説」でもっとも広く流布してしまったのが、北米に住むアジア系の人々の「雪」をあらわす語に関する伝説だろう。これはほとんど神話の類いである。

もともとは、アメリカの人類学者が、エスキモー人は、雪を少なくとも「積った雪」「降っている雪」「ふぶいている雪」「雪のふきだまり」を別々の語で言い分けていると言い出したことに端を発するが、それが、言語学者の手になる入門書などで尾鰭がついて、4 から 6、10、20、50 と「雪」をあらわす語の数が増幅していってしまった。

詳しい顛末は前に『言語学の方法』という本の中で紹介したので省くが、英語でも簡単に22個以上の雪をあらわす語があげることができるということを言っている人もいる。これは、何をもって別々の語と数えるかをいい加減にすると、語の数だけが一人歩きをするという例である。拙著では、日本語でも、いい加減に数えれば、30近くあげることができると指摘しておいた(その中には、もちろん、「雪達磨」も入っている)。

ところで、標題だが、これは、イギリスのシンガー・ソングライターの Kate Bush の昨年の同名のアルバムの中に収録されている曲である。drifting, twisting, whiteout, avalanche などの、比較的わかりやすいものから始まり、男性のナレーションで英語の雪に関する (?) 語が延々と語られ、Kate は「あと44語」とか急き立てているだけの曲だが、だんだん、そのままでは「雪」をあらわす語とは考えられないものになってくる。crème-bouffant のようなフランス語、peDtaH 'ej chIS qo' のような Klingon も出てくる。ようやく最後の50番目に snow が出るが、これで英語に雪をあらわす語が50もあるとは誰も思わないだろう。つまり、他の言語でも同じことではないかと納得させる。

このように、伝聞によって情報が伝わるときに、言葉が一人歩きをするということがある。それが言われた前後の文脈を忘れて、あるいは意図的に無視して一部だけを伝えると、結果は思いもかけないことになる。今日ではインターネットによって情報があっという間に伝わるが、その際に前後の文脈を剥ぎ取った形になってはいないか、注意していかないととんでもないことになるのである。

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